毎日何気なく歩いている東京の街に、故郷の先人たちの息遣いが静かに刻まれている。
東京の出版社で働く富山出身の編集者・沢田みのりは、県人会の「懇親のつどい」の夜、元売薬商人の老紳士・中田孝一郎と出会う。「両国のあたりを歩いてみてください」——その一言から、みのりは東京の街に残る越中人の足跡をたどり始める。
安政五年、立山が崩れた年に江戸へ向かった安田善次郎と、どん底の時代を隣で支えた房子。九転十起の男・浅野総一郎と、舵を握り続けた糟糠の妻サク。海を渡った科学者・高峰譲吉と、異国の地で家庭を守り抜いたキャロライン。名を出さずに与え続けた男たちの傍らには、いつも「陰徳」を共に生きた女性たちがいた。
三百年続く越中売薬の「先用後利」の心、百年続く立山砂防の営み、そして今も東京と富山を結ぶ県人会の絆——。現代と明治を行き来しながら、故郷を持つことの強さを問いかける物語。
目次
刊行のことば
プロローグ ——懇親のつどいの夜——
プロローグ 第二話 立山が崩れた夜
第一章 安田善次郎と房子 ——陰徳を共に生きた——
第二章 浅野総一郎とサク ——糟糠の妻、舵を握る——
第三章 高峰譲吉とキャロライン ——異国の地で守り抜いた——
第四章 富山の街を歩く ——先用後利は、続いている——
エピローグ
あとがき
刊行の経緯
本作は、東京富山県人会連合会の創立百十周年と常願寺川直轄砂防事業百周年を記念して執筆され、二〇二六年六月、「懇親のつどい」の場で記念誌として頒布されました。このたび、より多くの方にお読みいただくため、電子版として刊行いたします。
著者
越野文香(こしの・ふみか)
東京都出身。郷土の歴史と人物に取材した小説を執筆。本作が第一作。次作『越中万葉物語 あゆの風』を北前書店より刊行予定。
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